平成24年社長年頭の辞

社内報「とりしま」より転載しています。
一部、内部的なコメントも含まれていることをご了承ください

「とりしま」第179号/2012.2.10記

2012年、キーワードは『動く』です

パナソニックが7800億円、シャープが2900億円、ソニーが2200億円、皆さんにはこれが何の数字か分かるでしょうか?
2月に入り、上場会社各社の今年度第3四半期の決算発表が行われていますが、これらの数字は、3社それぞれの
今期の最終赤字の見込み額です。この3社の赤字額の合計だけで、1兆円を突破するという異常事態です。

一方、韓国サムソン電子は2011年第4四半期(10~12月)で過去最高の決算を発表、この3ヵ月間だけで、
営業利益が47億ドル(3600億円)の黒字です。コメントすら拒みたくなるような大きな差ではありますが、一つだけ言えるのは、
『日本企業にとって、現状維持では未来はない』という明白な事実なのでしょう。
ここまで差がついてしまえば、潔く長い間業界を支えてきたテレビ事業依存から脱却し、 中途半端ではなく本気で事業ポートフォリオの見直しに着手できさえすれば、日本の電機産業の復活は今後大いに期待できる、と個人的にはそう思っています。

夜明け前は一番暗いもの。日の出の時のように、もう少しすれば急に明るさが出てくると信じて、日本企業は改革あるのみ。
この数字のコントラストがそう強く訴えています。

トリシマも2月9日に今年度第3四半期の決算を発表しました。皆さんの努力の結果、 苦しい中でも昨年度に比べ受注を伸ばしつつあり、この9ヶ月間の売上金額は321億円と僅かではありますが、増加しました。
しかしながら、利益面では、営業利益16億円(△32%)、純利益8億円(△46%)と、大幅に利益率を悪化させています。
株式市場の下落による減損処理など特殊な要因もありますが、主たる原因は、急激な円高に対応できずに当社の競争力が落ちていることであり、 外部要因などと他責にはせずに、謙虚に反省をしなければなりません。
その真摯な反省なくしては、決して夜明けは来ません。

2012年のキーワード

昨年は、東北の大震災と原発事故、台風による大規模な水害、そしてタイの大洪水など、
息つく暇もなく大きな災害に振り回された1年、日本人にとってはみんなで身を寄せ合って耐えた1年でもありました。
だからこそ、今年は必ずや反転の年にしたいものです。そのためにも、縮こまっている心と体をストレッチで解きほぐし、
まず『動く』ことを心がける年にしようではないですか。

そして、元気よく一日を『動く』ためにも、皆さんに『大きな声での挨拶』の励行をお願いします。
気持ちが乗らない朝、疲れが取れない朝でも、仲間からの『大きな声での挨拶』は、「いかん、いかん」と
心と体の目を覚まさせてくれる、『動く』ためのエネルギーを充填してくれる、大事な心身のスイッチにもなるのですから。

昨年は、トリシマの企業活動も停滞気味の一年であった、と反省をしています。
中東や中国での工場の建設、プロダクト・マネジメント制度の立ち上げ、 設計標準化の推進、そしてエコポンプや省エネ提案を
中心にしたサービス事業への注力など、ギアをローに入れスタートして、それぞれ何らかの進展はありました。
ただ、ギアシフトしてフルスピードで走れるレベルにまでは、残念ながらまだ達していません。

また、このように2010年までに決めたことを伸ばす活動が殆どであり、更に新たなチャレンジをスタートするという点においては、
手数が少ない一年であったのも事実です。 昨年のこれらの活動を反省し、冒頭の日本の電機産業の状況を
『現状維持では未来はない』という教訓として、今年最も重要視したいキーワードが、『動く』です。

「犬も歩けば棒に当たる」ということわざのように、『動く』と転ぶリスクもあり、必ず成功するわけではありませんが、
まず動かなければ、 チャンスに巡り会うことさえありません。いつもお話しているように、我々の成長は、『動き』の中にあるのです。

年をとると動きが緩慢になります。これは単に体力やスピードが落ちるということだけでなく、体が硬くなってくると
転ぶことが大きな怪我につながるという心配から、行動が慎重になるという側面もあります。階段から転げ落ちれば、
子供の頃にはたんこぶをつくるぐらいで済んだのが、年をとれば複雑骨折をする可能性もあります。
但し、これはあくまでもフィジカルな面の話であり、心の持ち方とは全く別ものです。

「青春とは人生の一時期のことではなく心のあり方のことだ…」で始まるサミュエル・ウルマンの詩、『青春』のように、
『心の若さ』とは、決して年齢ではありません。企業としては当然『世代交代』を避けては通れませんが、
単に年齢を若返らすだけの 『世代交代』ではなく、大切なのは『動く』ことによる失敗(怪我)を恐れない、
或いは変化することを恐れない『心の若さ』を 持つ人への『世代交代』。この『世代交代』を進めることが、『動く』組織への近道でもあります。その為にも、失敗しても敗者復活戦は当たり前という考え方の徹底が重要になります。

大きな時代の流れ~歴史の転換点

今年は4年に1度のアメリカ大統領選挙の年です。リーマン・ショックが起こり、『百年に一度』の大恐慌の始まりといわれた
2008年の年末に、 『グリーンニューディール政策』を掲げたオバマ大統領が登場してから、ほぼ四年が経過したことになります。
1908年にT型フォードが発売されてから、ちょうど百年目の2008年は、大量生産・大量消費という20世紀の社会モデルの
終焉の始まりの年でもあったのです。

その後2回にわたる未曾有の規模の金融緩和(QE1・2)により、リーマン・ショック後の2年間で約190兆円の資金を
マーケットに供給したことから、 アメリカの景気は、現在はやや持ち直した状況にあります。
(日本政府の震災復興事業の規模が平成27年までの5年間で19兆円ですから、 アメリカは、リーマン・ショック対策として、
2年という短い期間に、ちょうどその10倍のお札を刷って市場に投入したことになります)

一方、欧州では、皆さんも新聞やニュースで毎日眼にしているように、政府債務とその金融システムに不安がくすぶり続けています。
多額の借金をして成長を支えてきた南欧を中心とした欧州各国の経済が、もはや立ち行かなくなり、
破綻寸前まで追い込まれている危機的な状況が続いています。

このように、日本、アメリカ、そして欧州と、20世紀の成長の中心を担った先進国で2008年に始まった経済・社会危機は、
現在もさらに進行しているのです。 我々は今まさに『百年に一度』の時代の大きな潮目、つまり歴史の転換点の真っ只中に生きているのです。大量の資金、大量のエネルギーを使い、 必要以上に生活の利便性を求めて大量消費を続ける……。
そんな20世紀の社会モデルは明らかに破綻しています。

しかしながら、借金への依存から脱却し、効率的なエネルギー利用や環境問題を重視する新しい社会モデルへの
抜本的な移行(変化)は、 2008年から4年経過した現在においても、遅々として進んではいないのが実情です。

日本、そしてトリシマの使命

過去の成功体験、或いは既得権というぬるま湯に浸かって一向に変わろうとしない我々に対して、
業を煮やした神様の強い忠告が、昨年の東北の大震災であり、原発の事故であったのかもしれません。
このままでは、人類の持続的な発展はない、地球がもたない、そう神様が我々に気付かせようとしたのではないでしょうか。
本格的な財政改革とエネルギー改革は、日本にとって待ったなしの課題です。昨年11月に世界人口が70億人を突破しました。

課題先進国である日本は、多くの問題を抱えていますが、いち早く問題解決への取り組みを開始して、 その成果を
世界に広げなければならない立場にあります。これが昨年の東日本大震災で亡くなられた多くの方への一番の供養でもあるのです。 我々にはもう一刻の猶予も残されていません。
歴史の転換点に立たされた時、従来の社会モデルにしがみついていれば大変なピンチを招きますが、 新しい社会モデルに向けていち早く変化することができれば大きなチャンスにもなります。まさに、「ピンチの裏にチャンスあり」です。

冒頭でお話した電機産業界で言えば、テレビなど従来の事業から、二次電池や新エネルギーなどの新たな環境事業へ
いかに早く舵を切ることができるかがカギとなり、できれば大きなチャンス、もたつけばピンチが続く、ということになります。
今後、更に企業の二極化が進むと言われる所以はここにあります。
平時であれば、企業には、安全に現状維持で外的環境の好転を待つか、 リスクを取って新たな成長を目指すか、
の二つの選択肢がありますが、いま我々がいる歴史の転換点という有事においては、 過去の延長線上に未来はない訳ですから、現状維持での生き残りという選択肢はまずあり得ません。
たとえ短期的に維持できたとしても、 それは衰退への時間稼ぎにしかならないのです。

トリシマは、この歴史の転換点を通過する時代にあって、3年前からスーパーエコ戦略とロイヤルカスタマー戦略を
グローバルで展開する経営方針を掲げて全速力で走ってきましたが、まだまだ満足できるレベルではありません。
『ポンプdeエコ』、『ポンプde地球を救う』という大きな夢を、いかに我々一人ひとりが、自分の夢として腹に落として変革にチャレンジできるか、 これこそが、トリシマが歴史の転換点に大きなチャンスを見出し、
そこから飛躍できるか否かの大事なキーなのです。

何度失敗しても、出来るまでやり続けます。この大きな夢の実現に向かってチャレンジを続ければ、
必ず我々の未来は明るく輝くと信じています。

学びの10年の6合目

2011年、私にとってのもう一つの大きな出来事、それは10月5日にスティーブ・ジョブズが56才の若さで
亡くなったことです。パソコンを格段に使い易くしたMac、何千万曲の音楽が自由に聞けるようになるきっかけを作った
iPodとiTunes、 今年は携帯電話の販売台数を抜いて爆発的に普及しているスマートフォンiPhone、
そして、間違いなくこれから先、本格的に普及してくるであろうタブレット型PCのiPad(医療やサービスなどの分野が今後画期的に変わると信じています)。
我々の生活は彼の作り出した製品によって、大きく変化し恐ろしく便利になりました。

『なにが僕を駆り立てたのか。クリエイティブな人というのは、先人が遺してくれたものが使えることに感謝を表したいと
思っているはずだ。 僕が使っている言葉も数学も、僕は発明していない。自分の食べ物はごくわずかしか作っていないし、
自分の服なんて作ったことさえない。 僕がいろいろできるのは、同じ人類のメンバーがいろいろしてくれているからであり、
すべて、先人の肩に乗せてもらっているからなんだ。
そして、僕らの大半は、人類全体になにかをお返ししたい、人類全体の流れになにかを加えたいと思っているんだ。
それはつまり、自分にやれる方法でなにかを表現するってことなんだ―(中略)
僕らの先人が遺してくれたあらゆる成果に対する感謝を表現しようとするんだ。
そして、その流れになにかを追加しようとするんだ。  そう思って、僕は歩いてきた。』

これは、昨年発刊された彼の伝記(※)から抜粋した、彼の根本にある考え方です。感謝する気持ちを忘れず、
自分の信じた道を突き進んだ、尊敬すべき素晴らしい経営者です。

2005年、彼がスタンフォード大学の卒業式で行った伝説のスピーチは、YouTubeでも流されているので、
聞いたことがある人も多いと思います (まだ聞いてなければ、是非聞いてみて下さい!)。
この心が動かされる素晴らしいスピーチの最後の部分で、彼が引用した言葉は、

『Stay hungry, Stay foolish』。

直訳すると、ハングリーであれ、バカであれ。
少し意訳すると、Hungryとは、現状に満足するな、諦めるな。
Foolishとは、謙虚であれ、賢ぶるな、でしょう。そして本当に言いたかった事を想像して更に意訳すると、
『ゴールはない、常にチャレンジを続けろよ。その為には、失敗する勇気を持てよ。恥をかいてもいいじゃないか。
馬鹿だな~お前、と言われてもいいじゃないか。信じた自分の道を進めよ。』そんな彼の声が聞こえてくるような気がします。

周りの様々な人たちに支えられて生きていることに『感謝』して、それに対して、少しでも世の中へお返しをするためにも
画期的な製品を世の中に出し続けるという『志』を持ち続け、失敗を恐れずにチャレンジしたスティーブ・ジョブズ。
『感謝』の気持ちと高い『志』を常に持ち続けたその生き方には、多くの学びがあることを、彼の死に際して改めて感じています。

2012年は、トリシマの『学びの10年』の6年目です。まだ6合目。今年もみんなとともに、元気にチャレンジできる恵まれた環境に感謝しながら、 様々な学びを大事にする一年にしたいと思っています。
チャレンジして、成長して、失敗して、笑って、そして泣いて、そんな経験を積みながら、 一歩一歩でも
『ポンプde地球を救う』という大きな夢に向かって前進したい。
そのためにも、まず『動く』を大切にする一年にしようではないですか。

(※)『スティーブ・ジョブズⅡ』
(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳) (平成24 年2月10日 社内報「とりしま」No.179 2012冬号)

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