平成23年 社長方針

社内報「とりしま」より転載しています。
一部、内部的なコメントも含まれていることをご了承ください

「とりしま」第176号/2011.5.1記 

頑張ろう、日本!

今年も日本に桜の花が咲きました。桜前線は例年通りに被災地も包み込み、北海道へ向かって北上しています。
桜は、日本人に最も愛されている花です。多くの桜は葉が出そろう前に花を咲き揃えるので、
「何もないところに花が咲く」というその姿に、生命力の強さを感じてきたからでしょう。
桜は冬の厳しい寒さに耐えて、春には必ず美しい花を咲かせます。

未曾有の出来事から、2ケ月が経とうとしている今でも、行方不明の方が1万人もおられます。
被災者の皆さんの悲しみや苦しみは続いていますが、この桜の訪れとともに、ようやく本格的な復旧・復興が始まろうとしています。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と津波が、今までに経験したことのない危機を日本にもたらしています。
未だ犠牲者の数すら特定できないような混乱が続いている中での原子力発電所の深刻な事故。
また、それに伴う電力危機、農作物や海産物の被害など、同時多発的に様々な困難が大きく日本の前に立ちはだかっています。

幸いにも、トリシマの仙台支店の14名は全員無事で、既にみんな地域の復旧・復興に走り回っています。
そして、日本だけでなく、アジア・中東・欧米など、全世界のトリシマの仲間から仙台支店のみんなにたくさんのカンパが寄せられ、
その金額は200万円を超えました。

また、大規模プロジェクトを施工しているベトナムのお客様や協力企業の皆さんなど、企業・個人を問わず、世界中の多くの方々からも温かい支援を頂き、それらは赤十字に寄付させて頂きました。企業としてトリシマ自身も、被災された地域に寄付を行いました。
トリシマ、そして日本は、世界中の多くの方々に支えられているということを、改めて実感しています。

一方、3月中旬に原子力発電所の危機がピークに達した時、日本に在住していた多くの海外の人たちが日本から脱出しましたが、我々日本人は、ここから逃げる事はできないし、逃げる先もありません。
日本という国を、そして日本人であることを強く意識した瞬間でもあります。

震災後、東京都の石原知事が、『天罰』発言をして謝罪に追い込まれました。
『我欲(物欲・金銭欲)に埋もれ自分だけよければいいという、だらしのない日本人への天罰』という発言は、東北の方々に対して許されるものではありません。しかしながら、言い方は間違っているものの、神様に頭をガツンと殴られた気がした人も多かったのではないでしょうか。
「日本は変わらなければダメだ」と、多くの人が感じながらも、方向転換できずにズルズルと時間だけをやり過ごしてきた日本、
いつまでもその状態が続くはずはなかったのでしょう。 建築家の安藤忠雄さんが、3月31日付日経新聞の『私の履歴書』の中で、
今回の震災について書かれた文が、とても印象に残っているので、少し長くなりますが、以下引用します。

『本来、日本人には素晴らしい国民性がある。自身の経験からみても土木・建築の技術力や、スケジュール・品質・安全衛生の管理能力は世界トップ。他の分野でも繊細で緻密、探究心が強く勤勉な民族として海外からも高く評価されてきた。(中略)
しかし「経済大国」といわれ始めた1969年頃から実直な国民性が色あせていく。(中略)
人々は考えなくなり、闘わなくなった。経済的な豊かさだけを求め生活文化の本当の豊かさを忘れてしまった。
未来を担う子供たちは親の敷いたレールの上を走るに精いっぱいで、創造力を養うための貴重な時間を失っている。(中略)
人間性を育む教育を行い、自分なりの価値観を持つ「自立した個人」をつくり、家族や地域に愛情を持った日本人の国民性を回復しなければ、未来は見えてこない。(中略)
その日本は存亡の危機にある。今こそ第3の奇跡を起こすべく、 日本は真に変わらなければならない。』

そう「日本はダメだ」と嘆く前に、今こそ私たち日本人は一人ひとりが強くなり、個々のメンタリティを変革し、
明治維新・戦後に続く、第3の奇跡を起こし、何としても日本を復活させなければならないのです。

何年か後にこの震災を振り返り、『あれは想像を絶する大惨事だったが、それをきっかけに日本のすべてがしっかり立ち直った』と思える時が必ず来ます。またそうすることが生き残った我々の責務なのです。
これらの想いを胸に、3月29日の示達会議でみなさんにお話した『トリシマの2011年度の針路』を、以下振り返ります。

2011年度経営方針

東北、世界、そして地球に貢献する
一に技術、二に技術、そして三に技術
正確に、はっきりと、そして必ず

正確に ~状況を把握、分析する
*はっきりと ~計画を決める
*必ず ~決めた事を実行する

『東北、世界、そして地球に貢献する』

まず、いまトリシマにできる事は、被災地の復旧と未来に向けての復興に全力を挙げることです。これは、日本の企業としての使命です。 特にポンプは、あらゆる場面で人間生活や企業活動を支えている機械です。電力危機や農業復活、工場復旧や上下水・治水事業復旧への対応など、どうしたら地域の皆さんに役に立てるかを、一義的に考えて下さい。

どんなに困難な局面でも、『どうしたら出来るか』を考える姿勢を徹底して下さい。
原子力発電所の事故に伴う東日本の電力危機は深刻です。この電力危機は、3つの面で、予想以上の長期間にわたって、
日本を苦しめる可能性があります。

第一に、電力そのものの不足が生産活動を停滞させ、日本経済全体への打撃になるリスク。
既にニュースや新聞を通して計画停電で混乱した状況を、我々は目の当たりにしました。これから夏に向けて、電力消費量が急増し電力不足が再発するのは避けられない状態の中、様々な業界が15%程度の電力使用量の削減を模索しています。
極論すれば、省エネを何もしなければ生産を15%縮小しなければならない、ということにもつながる非常事態です。

第二に、原子力を伸ばすどころか、当面は徹底した定期検査や安全対策の工事のために、今動いている原子力発電所の稼働率までも下がるリスク。代替するエネルギーを高騰する化石燃料の輸入に頼る日本では、これによって更に電気料金が上がり、
製造業のコスト競争力の低下が懸念されます。

そして第三に、CO2の排出量増大に係るリスク。CO2フリーである原子力発電に全体発電量の約30%を依存する日本において、その一部が化石燃料による発電にシフトした場合、CO2排出量の増加は莫大です。
低炭素社会は地球を守るための国際社会の目標であり、震災で日本がこの目標を守らなくていいという事にはなりません。
年間約一兆kWhを発電する日本の電力会社がその10%の発電量を原子力から化石燃料ベースの発電に移行すれば、
それだけで日本のCO2排出量は5%以上増大する計算になります。
もし、日本がこの増加分をCO2排出権として海外から購入しなければならないとなれば、更なる経済的負担が発生することになります。

このように電力危機は、経済縮小リスク、製造コスト増大リスク、そしてCO2排出に係る国際社会での日本の信用リスクにつながりかねない非常に重大な問題なのです。
対策としては、まずは使用する電気の削減、つまり徹底した省エネ、そして再生可能エネルギーの拡大や蓄電による電力負荷の平準化が考えられますが、いずれに対しても、トリシマが果たすべき使命は、これまで以上に非常に大きくなっています。

皆さんも知っているように、電力会社によって発電される年間の電気の約半分がモータの駆動用で、更にその約3割がポンプを駆動する動力として消費されている、と言われています。従って、ポンプを動かすのに日本の電気の約15%が使われていることになります。

現在トリシマは、エコポンプの活動に取り組んでいます。ポンプ・モータという製品の本源的な省エネで約10%の電力使用量を削減し、加えて、お客様の必要な仕様にポンプを見直す、つまり必要なH-Qにポンプを最適化する活動によって、合計20%以上の省エネの可能性を提供でき、実際に多くのお客様に納得頂き、その実績を伸ばしています。
一人でも多く、一社でも多くのお客様を訪問して、この活動を普及すること、つまりサービスをベースにした省エネ提案の活動の徹底が、まさに今社会で求められています。
これまで『ポンプdeエコ』がキーワードでしたが、これからは更に大きな『ポンプde東日本を救う、世界を救う、そして地球を救う』という志を抱いて社会に貢献しようではないですか。

『一に技術、二に技術、そして三に技術』

活動目的が利益を極大化することだけであれば、一流の企業ではありません。
その活動が社会を豊かにすることにつながっていなければ、真の存在価値はなく、永続する企業にもなれません。

いま、持続的成長を可能とする低炭素社会の構築が21世紀最大の人類の課題です。
ポンプの役割は人間の心臓そのものであり、ポンプが動かないと人類の生活が成り立たない。
しかし、ポンプはエネルギーを大量に消費する機械。だから、そのポンプを徹底的に進化させて省エネ化する。
これがトリシマに求められた社会的使命です。
企業活動の利益は、いかに社会に貢献できたかのバロメーターなのです。

この数年の円高の勢いは異常であり、日本の企業は韓国を中心とした新興国企業とのコスト競争に疲弊しつつあります。
更に今後、中国やインドなどの企業もこの競争に参加してくることは時間の問題であり、この流れは加速することはあっても、
逆戻りすることはありません。

我々は企業の存在価値をもう一度見つめ直して、未来を見すえなければなりません。
低炭素社会の構築に役立つ製品・サービスを開発・提供することこそがトリシマの一番の社会的な存在価値。
エネルギーの高効率化と高速・小型化による省資源化を目指す流体機械の技術、これらをお客様に提案して納得頂く営業の技術を徹底します。


『世界中の連続運転のポンプをトリシマ製に置き換えていく』

という大きな夢は、明らかにトリシマの技術が飛びぬけていなければ、達成できる夢とはなりません。
皆さん一人ひとりが、それぞれの立場で『本質的な技術を極める』という強い気持ちを持って活動して下さい。
トリシマは『世の中から必要とされ、常に成長する企業』であるべきなのです。

『正確に、はっきりと、そして必ず』

安藤忠雄さんが言われるように、日本人は考えなくなり闘わなくなった、と感じる出来事によく出くわします。
個人レベルも然り、そしてその最たるものが、日本の国としての外交姿勢なのでしょう。
戦後、あまりにも豊かになった日本では、ある意味これは必然的な現象なのかもしれません。
ハングリー精神が希薄になっているのでしょう。
問題は、この現象が長期化して、日本人のレベルが相対的に既にかなり低下してしまったという事実です。

トリシマには15ケ国を超える様々な国籍の人間が集っていますが、日本人の平均的な力が劣っていると感じる場面に出くわす場面が増えました。ただし、これに ついては、素養そのものが劣るというよりは、鍛えられていないという背景が大きいと感じています。
いかに才能があっても訓練しなければ、当然成長できず、一流になれません。
一度失った基礎的な力が一朝一夕に戻らないのも、また当然です。
従って、もう一度みんなで、仕事の上での足腰を鍛える基礎訓練をしよう、これがもう一つの今年の目標です。

近道はありません。一歩一歩です。TW活動的に言えば、一個一個のレンガを積み重ねて、確実に上がるステップを作る作業です。 最近よくある行動のパターンに、「計画を立てたが、期限までに達成できず、翌期にまた同じような計画を立て直す」というものがあります。この繰り返しがいろいろな部署で散見されます。
計画自体の見かけは立派でも中身が曖昧な為、達成できなくても、その真の原因が分からず、また曖昧な計画を立ててしまう、

そして問題が火を噴くまで、これを繰り返す・・・です。

背景には、変えたくないという気持ちや変わることへの不安や抵抗があるのかもしれません。これは、トリシマだけでなく、日本全体が陥っている現象なのですが、もはや変えないという選択肢は、我々には残されていません。
基礎訓練ですから、やる事は難しくなく、いたってシンプル。

『正確にデータを集めて分析し、はっきりと目標値と方策を伴った計画を立てて、必ず実行する』

というプロセスを大事にする、これだけです。

そして全ての課・部に『週報』を導入することで、このプロセスを見える化して、プロセス自体にスポットを当て、
チームのコミュニケーションを重視します。腹筋と腕立てみたいなシンプルな活動ですが、必ずビジネスの基礎体力が回復すると思って、徹底して下さい。

最後に、2007年11月の産経新聞の記事を紹介します。これは、終戦直後、焼け野原になった東京に米国の占領軍が駐在した時、日系二世のジョージ・アリヨシ氏(後のハワイ州知事)が、両親を亡くした7才の靴磨きの少年と、有楽町の高架下で出会った時の印象と今の日本に対するメッセージを手紙にしたものがベースとなっています。

東京は焼け野原で、更に大凶作で1千万人の日本人が餓死するといわれていた年。アリヨシ氏は「さぞ、お腹がすいていることであろう」とコッぺパンを靴磨きの子供に渡しました。
するとその少年は「ありがとうございます。」と受け取りましたが、その場では食べずに、靴磨きの箱にパンを入れたそうです。
どうしてすぐに食べないのかと思って尋ねたところ、少年は「3歳になる妹が家で待っているので、妹に食べさせたい」と答えたそうです。アリヨシ氏はその時、「わずか7才の幼い男の子が、自分の空腹を我慢して、幼い妹に食べさせたいなどという民族が、この世界のどこにいるだろうか。
人を思いやる心が日本にある限り、必ず日本は復興する、発展する。」そう確信したそうです。
そして、今を生きる日本人へのメッセージも最後にしたためられています。

『幾星霜が過ぎ、日本は変わった。今日の日本人は生きるための戦いをしなくてよい。
ほとんどの人びとは、両親や祖父母が新しい日本を作るために払った努力と犠牲のことを知らない。
すべてのことは容易に手に入る。そうした人たちは今こそ、7歳の靴磨きの少年の家族や国を思う気概と苦闘をもう一度考えるべきである。 義理、責任、恩、おかげさまで、という言葉が思い浮かぶ』と。

我々が、この7歳の少年の気持ちを持って、みんなで前に進み続ければ必ず日本は復活します。
「頑張ろう、日本!」

(平成23年5月1日 社内報「とりしま」No.176 2011初夏号)

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