平成23年 年頭の辞 社長

社内報「とりしま」より転載しています。
一部、内部的なコメントも含まれていることをご了承ください

 社内報「とりしま」第175号/2011.2.14記

熱く『技術』にこだわる年にしよう

大晦日から正月三が日にかけて、全国的に記録的な大雪に見舞われました。
岩手や青森では、積もった雪の重みで電線が切断され、多くの家庭で停電し、
鳥取境港では190隻の漁船が沈没するなど、多大な被害が出ました。

異常な気候は日本だけではありません。トリシマの欧州拠点があるイギリスのグラスゴーでは
気温がマイナス20度を下回るなど、ヨーロッパ全域も厳しい寒気に包み込まれています。
また、季節が夏である南半球では、オーストラリアやブラジルを始めとし、多くの地域で記録的な豪雨による洪水の被害が相次いでいるのは、皆さんご存知の通りです。異常な気候の中での新しい年のスタート、厳しい年の幕開けを暗示しているかのようです。

昨年の記録的な猛暑から一転してこの厳しい寒さ、と気候の話題には事欠きませんが、
異常と言えば、日本国の危機的な財政状態が挙げられます。加えて、この問題に立ち向うべき政治の不甲斐なさも異常です。
昨年末に閣議決定された平成23年度の政府予算案の歳出規模は92兆円、これを賄うべき税収は40兆円で、
残りの大半は借金頼み。前年に続き、新規国債発行額(借金)が税収を上回る事態です。
今年の年末には、日本の借金残高の規模は、ついに国内総生産(GDP)の2倍を超えると予想されています。

EUの財政支援に頼る危機的なギリシャですら、借金残高はGDPの1.5倍程度。0.6倍を超えようとしているイギリスでは、
昨年政権交代を果たしたばかりの保守党キャメロン首相が、既に今年の1月4日から付加価値税(消費税)を
現行の17.5%から20%へ引き上げました。

『日本も消費税をすぐに引き上げろ』と言っている訳ではありませんが、日本の危機感とスピード感の欠如とその度合いが
あまりにも異常なのです。人口減少、少子高齢化、社会保障費や医療費の増加、そして財政赤字という構造的な問題への対応を
先送りし続ける日本政府。第二次世界大戦後の昭和20年代のように、全てを失い、落ちるところまで落ちなければ、
日本は本気にならないのでしょうか。

日本国債の格付けが引き下げられたことは、『そうならないように』という警告に他ならないのです。
ただしこのような政権を選択してきた責任は我々日本国民にあるのですから、文句を言う前にまずその反省も必要です。
そして、これらを戒めとして、問題の『先送り』を良しとせず、今年も皆さんと共に苦しい中でも最善の手を打ち続けていきます。

日本企業の置かれた状況

初出式の時、皆さんに個人の携帯電話で韓国製を持っている人がどのくらいいるか聞きましたが、ごく少数という結果でした。
実際にサムソンやLGなど、韓国メーカーの日本の携帯電話市場でのシェアは、合わせても僅か5%です。
日本の携帯電話の市場規模は、年間3400万台で既に頭打ちの状態にあり、国内シェアトップで25%を越えるシャープでさえ、
年間の生産台数はせいぜい1000万台。

一方、世界の携帯電話市場の規模は、年間13億台、かつ市場は年々拡大しています。
この世界市場での韓国勢のシェアは、サムソンが20%、LGが10%超と、その生産台数はそれぞれ数億台単位であり、
この2社で日本の市場規模の10倍以上の台数を供給していることになります。

更に、新興国だけでなく、先進国市場であるヨーロッパやアメリカでも、両社は上位3社の一角を占めています(日本勢では、ヨーロッパ市場のソニーエリクソンだけ)。このように、世界の携帯電話市場においては、韓国メーカーは既に日本勢を追い越し、
遥か先を走っているのです。今やこの傾向は、家電製品全般で顕著であり、自動車など様々な産業分野にも広がりつつあります。

韓国は、1997年のアジア通貨危機の時、実質的に国がデフォルト状態に陥りました。
その際、『朝鮮戦争以来の最大の国難』と腹をくくって、それぞれ10社以上あった電機や自動車会社を実質的に1社か2社まで集約するなど、国を挙げて痛みを伴う産業界の改革を断行し、成長のターゲットを世界市場に定めたのです。
韓国企業は、この10年の間に、多くの韓国人ビジネスマンを、世界各国に移住に近いようなベースで長期間派遣して、徹底的なグローバル化と現地化を進めてきました。

更に昨今の国策としての通貨ウォン安を背景に、その勢いは強固になりつつあります。
その結果、携帯電話業界だけではなく、様々な業界で韓国企業が日本勢を追い越すレベルにまで成長しています。
我々の大事なお客様である斗山重工業を中心とした韓国勢によるアブダビの原発受注は、その象徴的なケースです。
そして、皆さんも知っているように、ポンプ業界も全くその例外ではありません。

更に韓国の後ろでは、中国、インドなどの新興国の企業群が伸びてきています。
日本や韓国が20年から30年かけて通ってきた道を、その2倍、3倍、いや10倍のスピードで駆け上がってきています。
立ち止まって考えていられる時間など殆どないポジションに置かれた我々日本企業には、後ろを振り返っている時間さえ、
もうないのです。このように厳しい企業環境の中で、我々はどうあるべきなのでしょうか。

トリシマが目指す企業像

全世界の人口は、現在約69億人。日本では今後人口が減少していきますが、世界では2025年には80億人、2040年には90億人と、もの凄い勢いで人口が増加すると見られています。
2月に入り、懸念すべき指標の発表が相次いでいます。FAO(国連食糧農業機関)が毎月の食料価格の変化を示す『食料価格指数』が史上最高値を更新したと発表。LME(ロンドン金属取引所)では銅の先物価格が初めてトン当たり1万ドルを突破しました。

原油も再びバレル当たり100ドルを突破する勢いです。いずれは、食料や資源がいくらあって足りない状況が来る、という思惑が背景にあります。何より、将来これだけ大量の食料や資源を生産し、そして消費する時に排出されるCP2は天文学的な量であり、
環境への影響は計り知れません。人類が持続的に成長するための山ほどの課題と向き合っていかなければ、我々人類に未来はないと言っても過言ではない世の中。『21世紀は、水(食料)と環境(省資源・省エネルギー)の時代』と言われる所以です。

以前に『もしドラ』でも紹介した、P.F.ドラッカーは、組織の存在意義を、

『組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわち、
組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。』(*1)

と喝破しています。

企業は社会的な存在であり、様々な人々に支えられて成り立っています。だからこそ、皆さんの成長を通して社会に貢献して初めて、企業はなんぼのもの、と言えるのです。

『最小限のエネルギーで水を運ぶ技術を極め、その技術に基づく製品・システム・サービスを世界中に提供し続ける』ことが、
トリシマのミッションです。これから進むべき方向を模索する苦しい今だからこそ、『この大きなミッションを遂行するために、
トリシマは世の中に存在する』という想いを、みんなで再認識したいと思います。

従って、我々は常にその企業活動が、ミッションに合致しているか、確認と反省をくり返して進まなければなりません。
進むべき方向に迷った時や悩んだ時には、常にこのミッションに立ち戻って、物事を判断して行動する姿勢が求められます。
だからといって、何も肩肘を張る必要はありません。お客様に向き合ってそのニーズを把握する、常に世界最高の技術開発を目指す、そしてお客様に出来るだけ長くお使い頂けるような製品・システム・サービスを提供する、という当たり前のことを当たり前に実行することが重要なのです。

ただし、人間や組織は、往々にして当たり前のことが当たり前にできないものです。結果は正直です。
受注が伸びない、利益が出ない、クレームがなくならない、これらは何らかの原因があるからの結果なのです。
世の中の景気が悪い、円高だなど、これらは言い訳に過ぎません。我々の活動がミッションから乖離している、
当たり前のことが当たり前に出来ていない、これらが真の原因だ、と謙虚に反省しなければなりません。

言い訳に終始せず、結果に真摯に向き合う姿勢が重要です。人間も企業も、波があって当然。神様ではないのですから、
正しいことをやり続けることは簡単ではありません。弱さがあっても、或いはたまにはサボってもいいじゃないですか。
但し、調子が悪い時、失敗した時に、言い訳せずにきちんと結果に向き合うことが出来るか、
『いかん、いかん』と頭を掻いて、謙虚に反省して、あるべき姿に活動の方向を修正できるかが、真の企業の実力なのです。

基本に戻る

大リーグで10年連続200本安打という大記録を作ったイチロー選手のインタビューが、昨年NHKで放送されていたのを見た人も
いるでしょう。とくに昨年は、例年になく長いスランプが続き、10年連続に黄信号がつくところまで追い込まれたイチロー選手。
そのインタビューの中で、『スランプを切り抜けるとき、よく、精神力っていうでしょ。でも僕は違うと思うんです、
〝技術力〟で乗り越えるしかない。』と話をしていたのが印象的でした。

スランプは精神力で乗り越えるのではない、凹んでいるとき人間は精神力だけでは乗り切れない、
だから技術が大切だと。シーズン途中にもかかわらずフォームを改造し、スランプから脱出したイチロー選手。
最後には、『技術でスランプを脱出した時に、初めて精神的に強くなるんです。』とも話していました。
これが、自分に妥協をしない世界の一流の考え方なのです。

トリシマにいま求められているのは、まさに『技術』の強化です。苦しい時だからこそ、イチロー選手のように、
『技術』にこだわるべきなのです。苦しい時だからこそ、今年は技術をベースとした
『マーケティング』と『イノベーション』という企業活動の基本の徹底が必要なのです。

マーケティング
昨年より、『全員営業』を掲げて、専門性を重視した組織への見直しをスタート、今年もその流れを継続します。
最も大事なことは、お客様の目線に立ち、まずそのニーズを徹底的に把握すること。顕在化しているニーズはもちろんのこと、
潜在するニーズも洗い出して、そのニーズに基づき提案をする姿勢が営業の基本です。
その為にも、中途半端な経験や根性論に頼るのではなく、科学的な営業プロセスのステップをきちんと踏むという
営業の『技術』を重視していきます。
2つのイノベーション
『プロダクト・イノベーション』
まさに競争力そのものであり、技術・製品・サービスのたゆまぬレベル・アップに他なりません。
研究開発投資の拡大やプロダクト・マネジャー制度の強化を中心として、トリシマのミッションを達成するための
突出した技術レベルの確立や先端性を追求する活動を続けます。

『プロセス・イノベーション』
誰にも真似できない仕組みや追いつけないスピードを目指すことです。
海外生産も順次拡大していきますが、韓国や新興国に比べて人件費が割高の日本が、競争力を維持していくためには避けられないチャレンジです。
高度な標準化、プロジェクト・マネジメントの強化、たゆまぬ生産性の追及であり、まさに『楽して、たくさん』に他なりません。

そして、これらを実行する我々自身の日々のレベル・アップも基本中の基本。
『事実に基づき考える、謙虚に学ぶ仮説を立て具体的な方策を決める、そして行動し、その結果に真摯に向き合い反省する』
というプロセスを繰り返すこと。このプロセスでの失敗は、大歓迎。何物にも代えがたい貴重な学びになるからです。

現状維持は、衰退と心得て下さい。これが、トリシマの目指す知識労働者の姿です。
『学びの10年』の5年目である今年、能動的にこのプロセスを踏んで行動できる人材の育成・強化を、基本に戻って徹底します。
昨年の12月25日に『伊達直人』を名乗る人物から、群馬県中央児童相談所へランドセル10個が送られたことを皮切りに、
全国各地の児童養護施設へ『伊達直人』さんからの寄付行為が相次いでいます。既に47都道府県全てに広がっており、
その件数も千件を超えています。

ランドセルだけでなく、子供達が自分のお年玉で文房具を買って届けるなど、
様々な年齢層の、たくさんの『伊達直人』が現れているようです。
ランドセルは、養護施設の子供達全員には入学直前になってもなかなか行き渡らないこともよくあるので、
何よりのプレゼントだそうです。一人の行動が、多くの人の感動を呼んで、全国に広がった『タイガーマスク運動』。
暗いニュースばかりの日本において、本当に心温まる出来事です。

苦しい時だからこそ、我々もこのような『感動』する気持ちを大事にしようではないですか。
皆で『泣いて、笑って、悲しんで、喜ぶ』そんなチームでありたいと思っています。
『タイガーマスク運動』のように、一人の勇気ある行動、一人の必死に頑張る行動が、組織全体をも変える力を持っているんだと信じようではないですか。

『世界中の連続運転のポンプを、トリシマ製に置き換えていく』という大きな夢と、
感動する気持ちを大切にして、今年も皆で元気良く駆け抜ける一年にしようではないですか。

(平成23年2月14日)
(*1)『経営者に贈る5つの質問』(ダイヤモンド社)

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