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酉島製作所 採用特設サイト トリシマポンプ
匠の技に触れた、入社一年目にして初めての海外出張
ルクマン ビン アブドル ハキム
高専 機械システム工学科卒業/2017年入社
産業本部 サービス管理部 カスタマーサービス課

*職務および原稿は、2020年2月現在のものです。

3社断られた後に見つけた、自分の居場所

勉強や訓練で身に付くものと、持って生まれた資質や育った環境などから自然と身に付くものがある。前者は何歳になっても本人の努力次第で習得可能だが、後者の素直さや誠実さ、謙虚さなどは努力だけで身に付けるのはなかなか難しい。

トリシマが採用において主に重視するのは後者であり、とくに新入社員に関しては、能力は未知数。真っ白なキャンバスさえ持っていれば、どんな仕事をさせても必ず大きく成長する。マレーシア出身のルクマンも、その可能性を秘めた一人だった。母国のセカンダリースクール*を卒業後、2年間のプレパラトリースクール*を経て仙台の高専へ。そのまま日本での就職を希望した。友達との絆を通して日本が大好きになっていったこと、そして何より、16歳で父親を亡くして以来、女手一つで姉と自分と妹を必死に育ててくれた母親を楽にしてやりたい。そんな想いと決意からだった。

「でも日本語が苦手で、3社受けてすべて断られました……。もうマレーシアに帰ろうかなってあきらめかけたとき、先生がトリシマって会社があるからって面接をアレンジしてくれて、採用が決まったんです。本当に、本当に、ありがたかった」。

吉報を聞いたとき、先生や友達も、我が事のように万歳三唱で喜んでくれた。そんなエピソードからも、ルクマンがどんな存在なのかがうかがえる。本人は謙遜するが、彼の日本語能力は仕事をする上で十分だし、英語が話せるので海外とのコミュニケーションも問題ない。捨てる神あれば拾う神あり。トリシマにとっては、ダイヤモンドの原石だ。

「社員食堂にハラル食があったりお祈りスペースがあるのも、ムスリムの私にはありがたかったです。他の3社にはなかった。結果的に私には一番の会社でした」

トリシマは1970年代から中東諸国の海水淡水化プラントに数多くのポンプを納入、以来、支社もかまえビジネスを展開している。イスラム文化への理解や対応は、ダイバーシティという言葉が出てくるずっと前から自然な流れ。とくに近年は、外国人比率が増えてきたため、「違うからこそイノベーションが生まれる」という考えのもと、インクルージョンも進んでいる。

*マレーシアの教育制度で、7-12歳がプライマリースクール、13-17歳がセカンダリースクール。
*留学に備えての2年間の準備学校。ルクマンの場合日本への留学が決ったため、日本語及び各専攻科目を日本語で学んだ。

究極の精度を追求する匠の技「キサゲ」

2017年4月、晴れて日本企業に入社。29人の新入社員の中で唯一の外国人だったが、持ち前の愛嬌と人懐っこい笑顔で、すぐにみんなにとけこんだ。配属は「海外で仕事したい」と希望したサービス部門に決定。国内の現場研修も経験し、入社1年目が終ろうとしていた頃、早くも海外出張のチャンスが巡ってきた。行き先は台湾の発電所、OJTを兼ねたボイラ給水ポンプ(BFP)のオーバーホール。ポンプを現場で分解し、部品の磨耗具合を調べて必要な修理や交換、ポンプ性能の回復を行うサービスだ。

今回、ルクマンを連れていく高田は、入社45年超、卓越した技能を持つ匠。高田にとっては基本の定期点検ではあるが、BFPは発電所のポンプの中でも要であり、万が一故障すれば発電所が停止する。すなわち、街から灯りが消える。トリシマの使命は、ポンプを通して快適で安心安全な暮らしをつくること。そのためにもBFPのオーバーホールは非常に重要な仕事で、入念な点検と緻密な作業が求められる。完璧に仕上げられるメーカーは、世界でも数少ない。

もちろんルクマンはまだ高田の指示で動くだけだが、今回はスケジュールがタイトだったため想像以上にハード作業となった。「でも高田さんは、ただの一言も愚痴ることなく、着実に、スピーディに仕事を進めていくんです。これが日本の、いやトリシマの仕事かと感動しました」。

感銘を受けたのは、それだけではない。工作機械の世界であれば知らぬ人はいない匠の技、「キサゲ」だ。これは、ポンプの主用部品であるシャフトとそれを支える軸受(メタル)の摺動性を上げるため、軸受(メタル)側にミクロン単位で微小な窪みをつける加工である。シャフトと軸受(メタル)の間の隙間は、0.04ミリ程度。髪の毛より細い。ここに潤滑油を流すことで一秒間に何十回という超高速回転も滑らかになるのだが、シャフトのアタリを均等にし、油をまんべんなくいき渡らせるためにはキサゲが欠かせない。さらに今回は、0.04ミリの隙間を0.09ミリまで広げる必要があった。削り過ぎると取り返しがつかないので、0.01ミリ以下の単位で削っていく。

「手に伝わる微妙な感覚を頼りに、何回も、何回も、納得いくまで繰り返して、百分の一ミリの狂いもなく仕上げるんです。すごい、の一言です」。

キサゲは、どんなに機械加工の技術が進んでも、熟練工の手作業でしか仕上げられない。経験による感覚に頼るところが大きいため、その修得は一朝一夕にはいかないがトリシマではこのように早い段階から匠直々に伝承している。「ルクマンは、いつも一生懸命メモを取るところが素晴しい」と高田は言う。図解とともに丁寧な文字でびっしりと書かれたそのオリジナル教本は、現在2冊目。キサゲに限らず今、さまざまな知識をスポンジのように吸収していっている。

ポンプに名前をつけ、愛情を持ってメンテナンス

移動日も含めて5日間の出張だったが、これを機に、ルクマンのポンプへの情熱や向上心は確実に高まった。「ポンプはデリケート。丁寧に扱え」と言われた言葉の意味も腑に落ちた。

「お客さんは、SVを送って、ではなく、『Mr.Takadaを送って』って言うんですよね。その理由が分かりました。私もいつか、『ルクマンを送って』と指名されるSVになりたい。もちろん、まだまだボトムライン。一人前になるためにはノー・ショートカットです」

「謙虚であれ。人に優しくあれ」。亡き父の言葉が、いつもルクマンの心にある。人はみな、それぞれの事情や悩みを抱えている。仕事中そんなことは、おくびにも出さなくてもだ。だからこそ、相手に対して共感や敬意をもって接する。それはポンプに対しても同じで、実はときどきこっそりと名前を付けている。

「そのほうがポンプに愛情を持てるし、丁寧に扱えるんです。名前ですか? ミミとかサニーとか(笑)」。

台湾の後、ベトナム、韓国、タイ、ウズベキスタンと出張も増えてきたが、とくに海外では、現場の状況が過酷なことも多い。それでも、「優しさを持って接すれば、一緒に働く人に対しても、ポンプに対しても、自然にリスペクトの気持ちが出てきます」

「サービスの仕事は幅広く、覚えなきゃいけないことはいっぱいありますが、先輩たちみんな優しく教えてくれるから仕事も楽しい。トリシマは、外国人だからと良くも悪くも特別扱いせず、平等にチャンスを与えてくれる。将来は、高田さんのようなスキルを持ち、部長のようなリーダーになりたいです」。

ルクマンの部門長となる、そのサービス管理部長は、大きな器で部下の成長を見守る。「器用なタイプではないけど、真面目に取り組むから着実に仕事を覚えていってる。それに素直で愛敬があって、自然とみんなに好かれる。これは努力や経験では身に付かない大きなアドバンテージ。きっと将来、人望のあるリーダーになってくれると思う」。その道はまだ始まったばかりだが、ダイヤモンドの原石がどんな輝きを放つか、楽しみにしている人は多い。

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